前回は、活動を社内に広めることに関してお伝えしました。今回はCSR活動の成果指標を設けて社内に開示することの効果についてお伝えいたします。
一般的に、経営等に関わる重要な指標をKPI(Key Performance Indicators=重要業績評価指標)と言います。CSRに関するKPIは、世界的にもまだまだ発展途上で確立されていません。よって、自社でどのような指標を立てるか、あるいは情報発信のガイドラインに挙げられている指標の候補から何をKPIとするかについても、まだ試行錯誤の段階の組織が多いです。そこで、今回はCSRに関するKPIが社内の活動にどう影響するかをお伝えします。
指標は状況把握の重要なツール
そもそもCSRにおけるKPIは、利害関係者(投資家、消費者、経営者等)の判断基準として、財務諸表以外の経済・社会・環境に関する情報を開示すべき、という論調から始まっており、どちらかというと対外的な発信に議論の中心がおかれてきました。しかし、これらの情報を開示することは、従業員という社内の利害関係者に対しても重要な効果を促します。KPIの効果はいろいろありますが、今回は他部門、他者との差(自らの取り組みは相対的にどうなのか?)が明確になるという点についてご説明します。
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指標が公表されていない場合、CSR活動に協力的な社員がいたとしても、自分の取り組みがどれだけ全体に寄与しているかがわからないと、モチベーションはなかなか継続しません。目標設定があり、進捗状況、さらにその達成度合いが分かれば、日々の活動を改善したり、他部署のノウハウを自発的に真似たりすることもできるでしょう。
分かりやすい事例として、例えば省資源の取り組みの一環として紙の使用量削減を行う場合、最終的な削減結果(枚数や費用削減)は集計されているはずです。そのようなデータを、部署単位、個人単位で随時社内に公表している企業は、うまく進んでいる部署とそうでない部署が一目瞭然となります。そのため、取り組みが活発化され、改善のための自発的に切磋琢磨する傾向が見られます。さらに取り組みを盛り上げている企業は、優秀者に表彰制度を設けているところもあります。
この際に、トップランナーを賞賛するのか、ボトムを指導するのかの手法選択は、その活動に何を期待するかですので、
第3回の記事を参考にしてください。
試行錯誤でも良いのでまず指標化してみる
ある活動における成果指標の変化が、その会社のCSRにどのような影響があるかという因果関係を明確にすることは重要です。しかし、新たな試みにおいて、あらかじめそのロジックを明確にすることが難しいケースが多くあります。その場合は、目的達成に関連すると思われる事象を列挙し、複数の因果関係を仮説だてて、課題を設定し、しばらく数字を取り続けてみることも必要となります。
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例えば、目的が「社員が自らの長所を活かし、いきいきと働ける組織作り」だった場合、ある社員が「いきいきしている」かどうかの判断指標の設定は難しいと思います。その場合でも、上司にほめられている数が多いと良いのでは?体調不良による遅刻、欠席の数が多いといきいきと働けていないのでは?といった仮説から数字をとってみることは重要です。「ありがとうと言った数」や「お客様にありがとうと言われた数」等を指標にしている会社もあります。
こういったプロセスを指標化するノウハウは、営業のように明確な成果指標を持ちづらい部門が蓄積していることが多く、総務、人事等管理部門や販売促進、研究開発部門等に相談してみるのも良いでしょう。
大事なことは、仮説が正しかったかどうかを結果から振り返り、翌年の指標を改善したり、課題の抽出を明確にしたりしていくことです。
指標と対話は共に必要である
当然のことながら、人事部門や間接営業部門等と同様に、CSR活動は数字の上下だけでは良し悪しを語ることはできません。
例えば、従業員の女性比率が低いという事象を考えてみます。図で示しているとおり、この事象の原因がそもそも採用時の比率の偏りにあるのか、女性社員が多く離職するからなのかによって、全く課題が異なります。その場合は当然重視するべき指標も異なってきます。採用後に女性社員が減っていくことが課題なら、女性社員の離職率減少を追及していくべきですし、採用時から女性社員が少ないのでしたら、女性の採用率向上を追及していくべきです。
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因果関係の明示 |
ただし、そもそも従業員の女性比率が低いことが経営やステークホルダーにどのくらいの影響があるかを明示することが最初に行われているという前提でのお話です。
現状はもう少し因果関係が複雑でしょうが、お伝えしたいことは、定量的な指標の背景にある事象(課題)が違えば、関連させる指標や、課題解決の方法も全く異なるということです。課題抽出のためにも対話は重要な手法ですし、指標の因果関係が正しいかどうかもまた、対話によって詳細に調べていくことが重要です。
また、従業員女性比率が少ないことを当事者の女性従業員自体が不満に思わず、満足している状況もあり得ます。その際は対話等の定性的情報をとるのが良いでしょう。社内だけでなく、その会社を志望している女性(女性の学生や転職希望者)もステークホルダーといえますので、そこにマイナスの影響が出ていないかどうか、配慮が必要な場合もありえます。
想定される今後の報告の流れ
現在、企業のCSRレポートには、指標が乱立しており、個々の情報の関連性が欠如しているという指摘や、情報の取捨選択の必要性があるという意見も増えてきており、今後は簡潔な報告と因果関係の説明が重要となります。同時に、担当者には経営への因果関係の明示を行う力が必要とされます。
今までは情報開示責任に重きをおいて網羅的に開示する流れもありましたが、今後はより利害関係者に理解してもらう説明責任が重視されていくでしょう。そのような観点で各社がどのような指標を開示しているのかを一度ご覧になってはいかがでしょうか?
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